あるトランスジェンダーの世界Marion.K

「女」を割り当てられて育ち「男」のように生きているあるトランスジェンダーの内面を記します。

「元女子」をやめたYouTuberの記事に感じたこと

「元女子」と自己紹介してYouTubeで動画を配信していた木本奏太さんのインタビュー記事を読んだ。

ashita.biglobe.co.jp


 トランスジェンダーの存在を分かりやすくキャッチーに伝える為に「元女子」という言葉を使ってきたが、その言葉が「やっぱり女子に見える」などという心無いコメントを誘発している可能性があると気が付いたので「元女子」と言うのをやめたという。

 木本さん自身がインタビュー中に話しているように、トランスパーソンを「割り当てられた性別」に結び付けた言動をする行為は攻撃となる。トランスだと知るや否や「ここはやっぱり男性的/女性的だね」などと言って殊更に身体を「審判」したり、トランスパーソンの性的な身体を「暴こう」としたりといった攻撃の話はトランスにとって珍しくない。それは侮辱であり、許されるものではない。

 まず当然の前提として、トランス差別は許されない。「元女子」という言葉がそのような侮辱行為を助長しうるから使うのを止める、という判断には賛成する。この記事についてTwitterでは「性別は変えられない」などといった、「割り当てられた性別」の意味を理解せずにしていると思われる差別的なコメントが湧いていたが、トランスジェンダーの存在を否定する差別者がどうしてそこまで傲慢で攻撃的でいられるのか、理解に苦しむ。

 ところで、私はこの記事を読んで、不誠実な印象を受けた。木本さんが数年前に出演していたYouTubeチャンネルを目にしたことがある。その時に感じたのは、「なんてトランスに対して侮辱的なチャンネルだ」というものだった。例えば彼らは、こういう動画を作っていた。

 

「元女子(女→男)のお風呂あがりに突撃 気になる上半身は?」

youtu.be

この動画は正に、「トランスの身体を暴く」という趣旨の動画である。「秘められたトランスの身体」をclick bait(釣り餌)にして興味を引こうという意図が見える。

 インタビューで言及された動画「【ご報告】元女子、やめます。」で木本さんが「正直、今まではね、何も考えてなかった」と語っている通り、「元女子(女→男)のお風呂あがりに突撃 気になる上半身は?」が公開された頃(2017年6月5日)は動画が他のトランスたちを含め、視聴者にどう受け止められるか、想像できていなかったのだろう。しかし今は、「これまで深く葛藤してきた当事者の方が傷ついてほしくない、自分のチャンネルはみなさんにとって常に安心できる場所でありたい。」と語っている。

 考えが変わったのは結構なことだと思う。そうであるならば、自分たちが作った過去の動画について反省するべきところがあるだろう。しかしインタビュー中では、「「正しく伝える」ということは以前からも大切にしていました」と語っている。トランスの身体を見世物にして、視聴者を釣ろうとしていたことについてはどう思っているのだろうか。過去のこのような態度について何も批判的な言及が無いところに、不誠実さを感じた。

 

 なお、最近の木本さんの動画からは、差別に苦しめられるトランスを思って社会に働きかけようと考えて発信しているという印象を受ける。

 

追伸:

インタビュー記事なのでもしかしたら実際は過去の動画についてコメントがあったのかもしれない。また、他の媒体では語ってるのかもしれない。そういう情報があったら教えて下さい。この一つの記事だけ読んで「不誠実」と判断するのも乱暴かと思ったのでタイトルを変えた。